ロレックスの "ブラック・パワー"

久しくこんな歯切れのよい方々にあったことはなかった。

カウンターの隣にいた30代後半セレブ系の元気なOLさん。ブランド好きではあるが、その層とは一線を置いてる風のチャキチャキ感ある3人。山の手でなく、子供の頃から下町育ちに違いないその口調と”ちょい酔い”態度。私はつい時計に目がいってしまい、すると、腕にあったのは…、光る石のカルティエ、ピンクのパテック、ヴァンクリーフ系角のWGブレス時計。それに女性では珍しく時計の話をしているので、聞き耳を立ててしまった。

すると、すぐ隣の女性がこちらの視線に気づいたのかほろ酔い口調で、

「かわった時計ですねー」と言ってきた。

面白そうな展開になりそうなので、外して見せてあげた。

「あらー、ロレックスってあるよ」くすっと笑ったと思ったら、急に麻生さんの口元に…、且つ小声で、

「イッャー害虫みたい」

真ん中の女性がさらに小声で「ちょっと、やめてよー」

3人とも堪え笑い「ぐっっ、」

奥の女性が目を凝らし真正面に持って「んー、焼け野原って説も…戦後のネ、それとも、ゴヤ...? 煤けた黒いのよ。あのー」

再び3人とも堪え笑い「プッ、ぐっっ、ぐっっー」...(でも全部聞こえてる)

すると真ん中の女性が真面目な顔で、

「汚いけどこれ、なんかぁ、変な感じなアンティーク感、あるよー」と言って、ブレスをビュンと伸ばし、それぞれが、

「面白いこれ、画期的ー、いつの発想?」

「伸びるんだー」

「ヤっだー」

そして、「すみません。勝手言っちゃって」

3人は言い過ぎたことを詫びるように深いおじぎをした。そのうちの1人は、ハイボールグラスにおでこをぶつけた。

ちょい酔いではなかった…。

私は心の中で「害虫…、焼け野原…かぁ。んーん...」

感心するほどの観察力と表現力に、スタッフに向かい入れたいほど感服。

「毒説く糸井重里シスターズ」

ベゼル/ミドルケース/ケースバックが3つに分かれるこの30年代の危険な害虫は、たちの悪い代物で伝染もする。そして脳と心に宿り離れることがない不思議な力を持っている。なんと言えばよいのか、

ブラック・パワー。

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